無辜の農民が冒険者たりえるのであろうか？　誰しもが疑問に思う事だろう。
概して迷宮には、踏破についての莫大な懸賞金や、その最奥に眠る秘宝などが付き物である。農民としての生活に飽きた、あるいは何らかの事情で生活を棄てねばならなかった者たちは、一攫千金を志して迷宮に挑もうとする者もいる。
　往々にして、彼らは迷宮を闊歩する怪物たちを相手取るには無力である。彼らは武器を扱う術には長けておらず、怪物を焼き払う、あるいは無力化せしめる術式の類を操る事はできないからだ。
　しかし、それでも彼らは冒険者たりえる。なぜならば農業を通して身についた知識と技術は、迷宮内に自生する希少な植物や鉱物を採集する際の大きな助けとなるからだ。ファーマーを擁するギルドは良質な素材を容易に入手できるため、財政が、ひいては装備が充実する事が約束されるだろう。
　一攫千金を求めて迷宮に挑む彼らが、危険を避けて地道な採集活動に精を出す事になるのは皮肉な事象である。しかし、彼らの存在そのものが、ギルドを迷宮攻略へと導く戦略兵器である事は疑いの余地も無いであろう。